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人間の中耳は、魚のエラを起源に持つことが2022年の化石の研究で明らかとなったが、今回の研究テーマは外耳である。

外耳とは、耳の外側にある部分で、音を集めて耳の中に伝える役割を持つ構造を持つ器官だ。

米国の研究チームによる新たな遺伝子編集を使った実験では、古代魚のエラに存在する軟骨が、数百万年前の進化を経て、私たち哺乳類の外耳に変化したことが示されている。中耳のみならず外耳も魚由来だったのだ。

それどころか、私たちの耳の起源は、”生きている化石”と呼ばれるカブトガニにまで遡れるかもしれないという。

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人間の耳と魚のエラには深い関係がある

2022年の研究によって、「中耳」(鼓膜の向こう側の部分。空気が入った空間と3つの小骨で構成される)が古代魚のエラに起源をもつことが明らかにされていた。

この進化の事例は、生命が1つの構造を変化させ、また別の用途に利用してきただろうことを示ししている。ならば、中耳だけでなく、外耳もまた古代魚の体を再利用したものかもしれない。

米国南カリフォルニア大学のゲイジ・クランプ教授は、「当初、外耳の進化的起源は完全なブラックボックスでした」と、ニュースリリース[https://stemcell.keck.usc.edu/an-earful-of-gill/]で述べている。

人間などの哺乳類の「外耳」(外から見える耳と、そこから鼓膜までの部分)の軟骨は、「弾性軟骨」とよばれ、ユニークな特徴がある。

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人間の鼻にある硝子軟骨や、腰の椎間板にある線維軟骨に比べると、ずっと柔軟なのだ。

そもそも、この弾性軟骨が哺乳類以外の動物にもあるのかどうか、詳しいことは不明だった。

そこでクランプ教授らは、タンパク質染色を用いてゼブラフィッシュやタイセイヨウサケなどを調べてみた。すると、確かに弾性軟骨は、魚のエラにもあることがわかった。

これらの魚はどれも硬骨魚類であり、このグループでは弾性軟骨が一般的だろうことを告げるものだ。

人間の耳の構造 Photo by:iStock

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外耳とエラの遺伝的なつながりを確認

次に、発見された魚のエラの弾性軟骨と哺乳類の外耳との間に、本当に進化的なつながりがあるのかどうかが検証された。

弾性軟骨はすぐに分解されてしまうため、なかなか化石として残ってくれない。

そこで魚と哺乳類の遺伝子の中に、エラと外耳のつながりを示す手がかりがないか探された。その手がかりとは、「エンハンサー」と呼ばれる短いDNA配列のことだ。

これは遺伝子の働きを強めるスイッチのようなもので、特定の組織でしか機能しない。もし人間の外耳のエンハンサーが魚のエラで機能するなら、外耳とエラには関連があるということになる。

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そして確かに、人間の外耳エンハンサーは、ゼブラフィッシュのエラで見事にスイッチが入ったのだ。

さらにクランプ教授らはその逆の流れも確認している。

ゼブラフィッシュのエラ・エンハンサーをマウスの遺伝子に挿入してみたのだ。すると、こちらでもエラ・エンハンサーがマウスの外耳で活性化することがわかった。

こうした結果は、魚のエラと哺乳類の外耳には遺伝的な関連があることを物語るものだ。

ゼブラフィッシュのエラで活性化する人間の外耳エンハンサー/Image credit: Mathi Thiruppathy/Crump Lab/USC Stem Cell

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私たちの耳の起源はカブトガニにまでさかのぼれる

その後の実験では、オタマジャクシトカゲでも同様のことを行い、両生類爬虫類も魚からエラと耳の構造を受け継いでいることが確かめられた。

トカゲの場合、外耳道でエンハンサーのスイッチが入ったため、爬虫類が地上に登場した頃(約3億1500万年前)には、弾性軟骨がエラから外耳へと変化し出していたことがうかがえるという。

なんと、こうした弾性軟骨のエンハンサーは、カブトガニにまでたどられている。

カブトガニ Image by Yinan Chen[https://pixabay.com/users/goodfreephotos_com-10388/?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=347245] from Pixabay[https://pixabay.com//?utm_source=link-attribution&utm_medium=referral&utm_campaign=image&utm_content=347245

4億年前に出現したカブトガニは、「生きた化石」と言われるほど古い種だ。このことは、人間の外耳が想像以上に古い起源を持つ可能性を示している。

研究チームによれば、魚のエラを作り出す遺伝的なプログラムは、脊椎動物の進化過程で何度も再利用され、さまざまなエラや耳の構造を作り出してきたと考えられるそうだ。

この研究は『Nature[https://www.nature.com/articles/s41586-024-08577-5]』(2025年1月9日付)に掲載された。

References: An earful of gill: USC Stem Cell study points | EurekAlert![https://www.eurekalert.org/news-releases/1069742] / An earful of gill: USC Stem Cell study points to the evolutionary origin of the mammalian outer ear - USC Stem Cell[https://stemcell.keck.usc.edu/an-earful-of-gill/]

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(出典 news.nicovideo.jp)

 

人間の外耳が魚のエラに起源を持つ可能性があるというのは衝撃的な情報です。この発見は、我々が人間という存在をどのように位置づけるかに影響を与えるかもしれません。科学の進歩によって、多様な生物の進化の歴史を紐解くことができるのは素晴らしいことですね。

<このニュースへのネットの反応>

カラパイアまでタイトルで煽るようになったかw 役割の違う器官を、これでいっかと再利用しているのが面白い。

 

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